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東郷は額に手をやり、頭痛を堪えるように言った。
「儂は冗談が上手くないんだ」
「ちょっと待ってください。オレは絵のことなんかこれっぽっちもわからないんです。いきなり鑑定しろだなんて」
「何、問題ない」
黒田は笑みを浮かべたままだった。
「ニセモノであれば君の望みが叶う。ホンモノであれば至高の宝が君のものとなる。どちらに転んでも君が損することはない」
「だけど、買うのは黒田さんでしょう?」
「ニセモノなら数千円。ホンモノなら……確実に億は超えるな」
東郷の言葉に、晃一は目眩を覚えた。黒田が約束を守るならば、晃一は一切損しない。だが、動く金額が金額だけに一世一代の賭けに出る気分である。
「わざわざ出向いてもらって恐縮だが、君も構わんだろう」
黒田はヴィンセントに向かって言った。
「ああ。コーイチが望むままにやればいい」
あっさりと言われてしまい、晃一は逃げ道を失った。
かくして、フェルメールの真贋鑑定は晃一の目に委ねられることになった。
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