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「君はどう見るかね?」
再び晃一に見ろと促す。
ホンモノかニセモノかなど、晃一にわかるはずがない。晃一はただ、感じようと絵と向き合った。
横山の絵のような、物足りなさや不純さはない。けれど、何故か以前に見たことがあるような不思議な既視感があった。
「ホンモノかどうかわからないけど、オレは左のほうが好きだ」
何か言いたげな東郷を制し、黒田が言った。
「そうか。君は感性が優れているのだな。見るのではなく、感じるのか」
余計な知識がない分、真っさらな状態で絵を見ることができるのだろう。絵の印象をダイレクトに心に通わせ、画家の魂や本質を感じる。晃一は自覚していないが、それはある種の才能である。黒田は晃一にさらに興味を持った。
「では尚さら、君にはわかるはずだ。本物の名画は絵が教えてくれる」
晃一は困ったように眉根を寄せた。
「黒田さん。あんた、坊主に何をやらせるつもりだ」
「単に彼の感想を聞きたいだけだよ。この絵を見た彼がどのように感じたかをね」
黒田が自分の何に期待しているのか知らないが、感想を述べるまで解放してくれないらしい。どうせ自分は真贋の鑑定などできない。絵の印象を述べろと言われたら好き勝手に言わせてもらうまでだ。
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