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「とても静かで、真摯な感じがする。それから、何ていうか……敬愛の念が込められている、みたいな」
感じたままの言葉を口にする晃一に、ヴィンセントの顔つきが変わった。信じられないとばかりに目を見開く。晃一は気づかず、思うまま言葉を続けた。
「それに、落ち着く。何だかほっと和む気がする」
この感じを、自分は知っている。
あの絵を前にしたときと同じ感覚なのだ。
幼く、孤独だった自分を慰めてくれた『星屑散りて』と、絵はまるで異なるのに、この感覚を間違えるわけがない。
「ああ、そうか」
合点が行ったように呟く。
「フェルメールじゃないんだ」
これはクロード・ダヴィッドの絵なのだ。
晃一は無意識のうちにそう思った。
そんな晃一に、ヴィンセントは優しく目を細めた。
「どういう意味だ、坊主。これがフェルメールじゃないって」
東郷が吠えた。己の失言に気づいた晃一は慌てて首を振った。
「そう思っただけだ。何の根拠もない」
「黒田さん、あんたはどうだ。この坊主を随分買っているみたいだが」
「さてねえ……どうしたものか」
椅子に深く身を沈めていた黒田は、軽く前に乗り出した。
「次は、ゲティから来たというお兄さんの話を聞こうじゃないか」
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