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クロードは贋作を描くつもりも、騙すつもりもなかった。オランダの天才芸術家を尊敬し、その技量を真摯に学ぼうとしていたのだ。そして、渾身の一枚が出来上がった。フェルメールの発見者と言われるトレに見てもらえれば、自分の技量を推し量れるはずだ。トレ本人には激怒されるかもしれないが。
だが、トレはニセモノだと見抜けなかった。依頼して返却された絵が、まさか模写だとは思いもしなかったのだろう。
死の直前、クロードがヴィンセントに打ち明けるまで、トレの所有する『合奏』はフェルメールによるものであった。それが実はクロードの絵だと知り、ヴィンセントは大きく呆れ果てた。信じきっているトレにも、大胆な真似をしたクロードにも。
「では、何故それを君が知っているのだろう。そして、本物のフェルメールはどこにあるのだろう」
黒田はもっともな質問をぶつけてきた。
「修復を依頼された画家の知人から聞いた話だ」
「そうか。君はそれを信じたのだね」
言うなり、黒田は胸ポケットから拳銃を取り出し、クロードの模写目掛けて撃った。
ヒュンッ、と空を裂く音がして、リュートを弾く男の頭を撃ち抜いた。
誰もが言葉を失った。微動だにできなかった。
「偽物に用はない。さあ、君、本物の在り処を言いなさい」
「黒田さん! この兄ちゃんが知っているとでも?」
「本物を前にしたから、その知人とやらの話を信じたのだろう? そうでなければ単なる与太話で終わるはずだ」
「本物の在り処など」
「言いなさい」
銃口が晃一に向けられた。
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