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黒田は本気だった。
フェルメールを手に入れるためならば、どんな手段も厭わない。狂信じみた収集家の行動に、晃一は体が竦んだ。
一方、ヴィンセントは躊躇っていた。銃で撃たれたところで痛くも痒くもない。人間の武器ごときで傷つくことはあっても、容易には死なない。だが、晃一は違う。生身の人間だ。下手をすれば死ぬ。
「言わなければ、彼を、あの絵のように」
「やめろっ!」
ヴィンセントが叫ぶ。黒田が撃つ。狙ったのは絵だった。
けれど。
黒田とクロードの絵の間で、晃一がうずくまっていた。
「坊主っ!」
東郷が駆け寄る。弾は晃一の右肩を貫通していた。血が赤く滲み、Tシャツを汚す。
「立てるか、坊主。すぐに医者に連れて行ってやる」
肉が抉れ、熱くて痛い。全身からどっと汗が噴く。歯を食いしばって堪えるのが精一杯だった。
「黒田さんっ! いくら何でも一般人相手にやり過ぎ……おい、兄ちゃん!」
東郷の慌てた声に、晃一は顔を上げた。
ヴィンセントが右手で黒田の首を絞め、宙吊りにしていた。
紫の瞳が、赤く炎のように燃えている。
黒田はヴィンセントの手を外そうともがいていたが、やがて顔色が土色に変色していった。
「ヴィンセントっ!」
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