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晃一はありったけの声で叫んだ。声が傷に響いたが、気にしている余裕はなかった。
ヴィンセントが晃一のほうを向いた。
「…………手を、離して……帰ろう」
弱弱しく請う。
ヴィンセントの瞳がスッと紫に戻った。
黒田を解放し、晃一に近寄る。立ち上がろうとする晃一を横抱きにし、「医者のところへ連れて行け」と東郷に命じた。
東郷は二人を車に乗せ、知り合いの町医者の元へ駆けつけた。晃一はすぐさま手術台にのせられ、麻酔を打たれた。
朦朧としていく意識の中、不安な面持ちで自分を見下ろすヴィンセントが目について離れなかった。
赤く『手術中』のランプがついた。
ヴィンセントは手術室の前の壁にもたれかかるようにして立っていた。
「黒田さんのほうは何ともないってよ。今、組の奴らに確認した」
携帯をしまいながら、東郷が戻ってきた。
「心配すんな。命に別状はねえって医者も言っていたし、ここはワケあり患者も見てくれる闇医者だが腕は確かだ」
「何故、嘘をついた」
ヴィンセントが静かに問うた。
「何の話だ?」
「貴様の連れが割った茶碗、あれはニセモノだ。貴様はそうと気づいていたくせに、コーイチにワビを入れると言ってあの男に近づけた」
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