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「悪かった。まさか、こんなことになるとは思ってもみなかったんだ。だが、本当にワビ入れるつもりだったんだよ」
東郷は髪をかき上げ、深く息を吐いた。
「割れたモン見たときは一瞬焦ったけどな。注意深く見れば真っ赤なニセモノだった。だけど、あの坊主にとっちゃあ、関係ねえんだよ。じいさんのモノってだけで充分値打ちモンなんだ。マジギレするぐらいにな。そんなモノに手出したんだから、こっちだって本気でワビ入れないと」
他意はなかった。
落とし前をつけようと黒田に話を持ちかけ、黒田に詫びを入れさせるつもりだった。こういうことに関しては、黒田も東郷も筋を通さないと気が済まない。
だが、黒田の暴走により、さらに借りを作る結果となってしまった。
「今日の件を含めて、改めてワビを」
「もういい。金輪際、あの店にもコーイチにも近づくな」
一瞬、ヴィンセントの瞳が赤く揺れた。東郷ははっと息をのんだ。
「……わかった。約束する。黒田さんにも手を出さないよう言っておく」
やがて、手術室のランプが消えた。扉が開き、中から医者が出てきた。
「容態は?」
「ああ、大丈夫だ。麻酔効いているから今は眠っている。二、三日入院させて安静にしておけば」
「その必要はない」
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