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半信半疑で尋ねると、「あんたではない」とぴしゃりと言い返された。
「私の名はヴィンセント・トゥールーズ。ヤイチとは五十年前に知り合った」
ヴィンセントは起き上がり、深々とため息をついた。
「たかが百三十年でこのざまか。情けない」
「……あの」
どうにも時間感覚がおかしい。晃一は戸惑いつつも尋ねずにはいられなかった。
「あんた……ヴィンセントは人間ではないのか?」
「人間だと思っていたのか?」
不思議そうに問い返され、返す言葉がなくなってしまった。
「確かに姿かたちだけで言えば人間とほぼ変わらない。だが、その生態は著しく異なる。貴様らが言うところの吸血鬼という輩に近いな」
「はあ……」
さらりと正体を暴露され、どう反応したらいいかわからなくなってしまった。俄かに信じられないが、そう言われてみればこれまでの出来事に合点がいくような気もする。
不審そうな眼差しをよこす晃一に、ヴィンセントは、フンと鼻で笑った。
「全く、数が多いだけの無知な人間は世界を知らなすぎる。己だけがこの世界の覇者だと思っているのか? 己以外の存在は動物か空想上の怪物扱いだ。我々のような種族がいるとも知らずに。哀れな道化風情が」
「つまり、ヴィンセントは吸血鬼なんだな」
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