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「ああ、コーイチ。気がついたか?」
ヴィンセントの顔に安堵の笑みが広がる。けれど、その笑みはどこか力なかった。
「痛みは?」
「今はない。それより、ヴィンセントのほうが顔色が悪い」
「力を……使ったせいだ」
ヴィンセントは病院から家まで瞬間的に空間を移動して帰ってきたのだと言った。
「通常の状態であれば何てことはない。今は少し……体力が落ちているせいで…………非常に疲れている」
話すのもやっとなのか、言葉も途切れ途切れである。
「それから…………少量、だが、お前に私の血を……飲ませた」
「何だって?」
「気休め、程度だ。出血を、止め……体の組織を再構築するだけ……完全ではない」
もっと血があれば即座に完治させるのに、とうそぶく。
熱が出たり、傷跡が残るかもしれないらしい。だが、充分だ。
「何を考えているんだ! ただでさえ血が足りてないのに、オレにくれてる場合じゃないだろう!」
晃一は起き上がり、本気で怒鳴った。
「しばらく……休めば…………回復する。心配する……な」
慰めにも似たことを言うが、心なし、ヴィンセントの体が透けて見えた。
「嘘だっ!」
そんな状態で心配するなと言うほうが難しい。
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