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「ただでさえ栄養失調で餓死寸前のくせに。その上過労だなんて、死んでしまう」
「フン……過労死など、するわけ……なかろう」
憎まれ口も弱弱しい。
「待ってろ。すぐにレバ刺しと赤ワイン持ってくるから」
「……いらん」
ヴィンセントは晃一の手首を掴んだ。
「ここまできたら……何の、足しにも……ならん。ここに、いろ」
それではいよいよ消滅の時が迫っているとでも言うのか。
「イヤだっ、ヴィンセント。オレのせいで」
「馬鹿者……お前は、何も……悪く、ない」
「でもっ」
「むしろ、感謝しているぐらいだ…………クロードの絵を、守ってくれて。ありがとう」
嬉しそうに笑うヴィンセントに、晃一は頭を振った。
「あのとき、何も考えていなかった。銃がオレから絵に向けられたから、とっさに動いただけで」
「それでも……嬉しい」
ヴィンセントの言葉が全て、消滅を前にした最期の言葉のように聞こえる。
「オレの血を吸え、ヴィンセント」
晃一の申し出を、ヴィンセントは案の定断った。
「まあ、聞け。クロードと出会うよりもはるか昔……ある少女と出会った」
なおも言いたげな晃一を制し、ヴィンセントは昔の出来事を語り始めた。
少女の名はジャンヌ・ダルク。今なお語り継がれる聖騎士である。
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