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『諦めているわけじゃあないんだ。悟っちまうんだよ、これが自分の人生だったって。そうして満足しちまえば、そいつは充分幸せなんだ。幸せに生を全うできたんだから。ジャンヌは祖国に平和が戻ったことが嬉しかった。そこで自分の役目は終わりだと悟った。だから死んだんだ。我がままなんだよ、死を選ぶってのはさ。ヴィンセントの言うように、生き長らえることができたのかもしれねえのにな』
ヴィンセントはクロードの言葉を反芻した。
「それでも……私には、理解……できなかった…………けれど、今なら、わかる……気がする」
「ヴィンセント?」
「……再び、クロードの絵を……見ることができ、た。失くしたと…………思っていた、あいつを……確かめることが………………できた」
向かいにある部屋の壁がはっきり見えるほど、ヴィンセントの体がさらに透けていく。
「そして………………コーイチに、会えた」
「今、それを言うのか? ずるいぞ、ヴィンセント」
顔を歪ませる晃一に、ヴィンセントは笑いかけた。
「幸せだと…………言っている。不満か?」
嬉しくないわけがない。
こんなときでなければ。
ヴィンセントはこのまま消滅することを望んでいる。それを悟った晃一は、繋ぎとめようと必死だった。
「日曜日、浴衣着て夏祭りに行くって言ったじゃないか」
「ああ……そうだな。残念だ」
たまらず、声を張り上げる。
「イヤだっ! オレを残して逝くなっ!」
両親のように、ヴィンセントまで失うなど耐えられない。
初めて好きになった者ならなおさら、その死を黙って見届けてやるものか。
「すまんな」
ヴィンセントは苦笑した。
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