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かつて、ジャンヌやクロードの死を見届けるしかなかった己と晃一が重なる。残された者の孤独や苦痛を、ヴィンセントは嫌というほど味わった。それを今度は自分が、晃一に与えようとしている。
死は、傲慢だ。
ヴィンセントは静かに目を閉じた。
晃一は思い切り自分の舌を噛んだ。血の味が口の中に広がる。すかさずヴィンセントの口をこじ開け、舌を差し入れた。少しでも自分の血をヴィンセントに与えようと、舌を絡める。
「何をっ……んんぅっ」
互いの唾液が混ざり合い、晃一の血と一緒に嚥下される。ヴィンセントの体がピクリと跳ねた。
体が晃一の血に反応した。
「コーイチ……」
今まで抑えてきた飢餓感が突然湧き上がってきた。瞳が紫と赤に揺れる。
「すまない……でも、オレはヴィンセントに生きてほしい」
他人の命を望むのだから、生も傲慢だ。
晃一は机の引き出しからカッターナイフを取り出した。刃を自分の手首にあて、思い切り切り裂く。真っ赤な血が滲み出て、腕を伝う。
すぐさまヴィンセントの口に持っていく。
ポタリ、と滴り落ち、ヴィンセントの色を失った唇を濡らした。
「………………あぁ」
絶望的な、それでいて感極まった声がヴィンセントの口から漏れた。
「コーイチ……お前の血が、欲しい」
頑なに拒み続けていたヴィンセントが、初めて晃一の血を求めた。
「いくらでも、やる」
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