エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

96/114

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
おばさんに、「顔色が悪いわよ」と心配されたが、それは恐らく血が足りていないせいだ。  晃一の血を吸ったヴィンセントは消滅の危機から免れた。透けていた体は元に戻り、初めて光月堂に来たときよりも顔色が良くなっていた。  今は、おばさんに着付けてもらった白地の浴衣を物珍しそうに見下ろしている。 「ほう、着心地がよいな」 「夏だからね。通気性のいい絽を使っているのよ。さあ、次は晃ちゃんだよ」  ヴィンセントの浴衣姿に見惚れていた晃一は、おばさんに急き立てられて慌てて立ち上がった。ヴィンセントの白とは対照的に、晃一は黒と灰の縞模様の浴衣を着せられた。 「まあまあ、男前が二人も並ぶと圧巻だね。さあ、行っておいで。今夜は絶好のお祭り日和だよ」  二人は借り物の下駄を履き、神社に向かった。 会場の神社は小高い山の上にある。その麓の参道には屋台が立ち並び、吊るされた提灯が辺りを照らす。ジュージューと焼きそばをを焼く音、香ばしいたこ焼きの匂い、お囃子の音色に混じる楽しげな人々の声……そのどれもが新鮮に映るのか、ヴィンセントは興味深そうに眺めていた。  その後ろを、晃一は一歩離れて歩いていた。 「どうした、コーイチ」  先に行くヴィンセントが振り向いた。 「体調がまだ優れんのか?」 「ヴィンセントが早歩きなんだ」     
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加