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足の長さが違うせいだとは悔しいので言わなかった。少々貧血気味で力が入らないのだとはさらに言えるわけない。
血をあげると言ったのは自分なのだから、これしきのことでへばっていたらみっともない。それに、ヴィンセントが気に病んでしまうかもしれない。
晃一は何ともないのだと装った。
「境内に行こう。そこから花火がよく見えるんだ」
「どこだ、それは」
「あの石段を上った先に……うわっ」
突然ヴィンセントに横抱きにされた。
「何するん……えっ?」
抗議する間もなく、一瞬にして二人は境内の隅にいた。
「今のって」
「飛んだだけだ。ちまちま階段を上るなど煩わしい」
晃一を下ろしながらこともなげに言った。
見事な跳躍力である。今まで家の中でじっとしているばかりだったので知らなかったが、これが本来のヴィンセントなのだろう。栄養失調状態から復活したヴィンセントは生気に満ち溢れていた。
それを喜ばしく思う反面、気になることもあった。
ヴィンセントの誓いを自分のエゴで踏みにじってしまったのではないかと、頭の片隅でちらついて離れなかった。
「ここから見えるのか?」
「ああ。あそこの河原で打ち上げているんだ。ほら、始まった」
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