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秋葉原イベント会場
悪夢だ‥‥
御堂刹那は内心ぼやいた、ぼやかずにはいられなかった。
自分の隣を眺めると、長蛇の行列が出来ている。その先に居るのは、今を時めく人気声優の笹川スズカだ。
反対側に視線を移すと、こちらにも凄い行列が出来ている。居るのは唯一刹那が出演しているアニメで共演中の宮本優風だ。男の子役を得意としているが、人気美少女キャラも演じているので男女共に人気がある。
スズカの行列がほぼ男性なのに対し、優風は女性と男性の比率が六対四だ。そして、刹那の目の前には誰もいない。刹那以外の所は左右の二人ほどではないが長い行列が出来ている。
彼女は『第9回 ネトラジアニメ バレンタインプロジェクト』というイベントに参加している。これはアニメ声優が出演しているネットラジオのイベントで、リスナーが好きな声優からチョコレートを貰えるのだ。この仕事内容を聞いた時から嫌な予感しかしなかった。
もともと刹那は超マイナーアイドルで、アニメのオーディションに採用されたのを切っ掛けに声優に転向した。知名度はないし、出演したアニメはオンエアされて一ヶ月余り、分が悪いのは解っていた。
でも、これほどとは‥‥
誰か一人を選らばなければならないので、リスナーは本命に並ぶ。つまり、これは即興の人気投票なのだ。刹那の前に並んでくれた物好きは四人、出演声優が十三人で、リスナーは前後のステージを合わせて千人だ。そして今が前半のステージで、後半も出なければならない。
帰ろう、何かしら理由を付けて帰ろう。
左右の列から向けられる、憐みの視線がむしろ痛い。後半は声優の入れ替わりがある、人気声優は他の仕事も入っているのだ。刹那は暇だが、鋼のハートも限界だ。それに刹那がいなくても観客は気付かないだろう。
「せっちゃん大丈夫?」
チョコを渡す合間に、気を使って隣の優風が声をかけてくれた。
「はい、平気です」
引き攣った笑顔で答える。本当は「吐きそうです」と答えたかったが、先輩に迷惑はかけられない。
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