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楽屋前通路
永遠とも思える一時間が過ぎ、ようやく解放された。次のステージは公開録音だが、刹那が出演している番組は参加しないため、その後に再び行われるチョコレート配布まで出番はない。
この間に何か言い訳を考えて帰宅しよう、そう思っていると廊下の暗がりに立っている男が視えた。青白い顔をしているアラサーで、刹那には馴染み深いオタクの雰囲気をまとっている。
「どうしました?」
仕事ではないので普段なら関わらないが、今は心が折れかかっている。誰かの役に立ちたいと言うか、何か自分に自信が持てる事をしたかった。
〈………………〉
返答までに時間が掛かるのは珍しくない、むしろ彼らと会話をする時はよくある事だ。そう、彼は生者ではない。刹那はこの世に留まる死者を視る事と話す事が出来る。そのため彼女は、事務所の社長で叔母でもある好江から副業で拝み屋をやらされていた。しかし、今回依頼は無い。
〈サヤ‥‥ちゃん‥‥〉
ボソリと霊が呟いた。
「サヤって沖田沙絢さんのこと?」
刹那がサヤという名前で心当たりがあるのは、共演中の声優、沖田沙絢だけだ。だが、このイベントの出演者には居ないが、サヤという名前だけなら幾らでも居る。
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