楽屋前通路

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 ところが、男の霊はゆっくりと(うなず)いた。  刹那はこのイベント名が『第9回 ネトラジアニメ バレンタインプロジェクト』だったのを思い出した。今回は不参加だが過去に出演していたのかもしれない。そうするとこの霊は常にここにいるのではなく、バレンタインのこのイベントの時だけ現れているのではないか。 「沙絢さんからバレンタインのチョコが欲しいの?」  彼は再び時間をかけてゆっくりと頷く。 「そう‥‥」  望みが叶えば成仏出来るのかもしれない。もっとも、成仏といってもこの場所に存在しなくなるだけなので、天国へ行くのか、単なる消滅かは刹那にも判らない。ハッキリしているのは、このままで居ることが当人にとっても辛いという事だけだ。 「せっちゃん、どうしたの?」  帰り支度を終え、大きな紙袋を下げた優風が声をかけて来た。彼女は前半だけの出演だ。 「また、何か視えてるの?」  アフレコ初日で副業をしたので、彼女は刹那の能力(ちから)を知っている。 「はい、実は‥‥」  刹那は簡単に目の前に居る霊について説明した。 「そっか‥‥このイベントの初回に沙絢さん出演してたよ」 「他には?」 「たぶん、それだけだと思う。あたし、結構このイベント出てるけど、沙絢さんと一緒だったのは初回だけ」     
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