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だとすれば、彼は九年前からここに留まっているのか。何とかしてやりたいが、沙絢を呼ぶのは無理だ。説得して成仏させるしかない。
「そうだ、せっちゃんこれ使える?」
言いながら紙袋からラッピングされた小箱を出す。
「これってバレンタインの‥‥」
「うん、次の現場で配ろうと思った義理チョコ」
「でも‥‥」
「気にしないで、余分に持ってきてるから」
優風は、少し強引に刹那の手に箱を持たせた。
「あ、ありがとうございます」
「いいって。じゃ、あたしは行くから」
行きかけた優風だが、何かを思い出したように脚を止めた。
「そう言えば、初回のこのイベント、あたし沙絢さんの隣だったんだけどさ、今日のせっちゃんと同じだった」
「え?」
「沙絢さんの前にはスッゲー行列が出来てるのに、あたしの前には誰もいない。正直、泣きそうだったよ、まだ新人だったし。
だからさ、辛いだろうけど、もう1ステージ耐え抜きなよ。来年があれば、きっと行列が出来るからさ」
「優風さん‥‥」
「ま、いつその行列が無くなるか判らないのも、この業界だけどね。じゃ、お疲れ!」
彼女は恥ずかしそうにほほ笑んだ。
「お疲れ様です!」
刹那は優風の足音が聞こえなくなるまで、深く頭を下げた。
「よしッ」
再び霊に向き直る。
「これを受け取ってくれませんか?」
定まらなかった視線がチョコに向けられる。
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