清須の町にて…

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庭の片隅でお侍の旦那が仕事をしている。 のみをとんかちでトントンと叩いている。 そのリズミカルな動きはまるで無駄が無く… 何かの踊りのようにも見える… 「格好だけは…玄人みてぇーじゃねぇか…」 その横で呆けた顔の若衆がその仕事に見入っていた… 「あの阿呆め…」 苦虫を噛み潰したような顔で若衆を睨み付ける棟梁… 一歩、二歩、三歩…若衆に近づく棟梁… ふと…旦那が彫る板に目をやる… 「!!!」 目が飛び出る位に見開かれる! 「あ……」 言葉すら失う… 目線はその板に吸い寄せられ…離す事が出来ない… 歩みを停める事無く… お侍の旦那の側に近づいていく… 手際とか技とかそんな物ではなくて… あの木の板に埋まっていた物を出していくような… 今にも香って来そうな藤の花… 川音が聴こえてくるのでは?と思うような川の流れ… 岩の上で藤の花を見る蛙は…近づいたら川に飛び込むのでは…と思わせる… するとくるりと板を返しまたのみを入れていく… 「!!!」 己は…何を見させられているのか… 判らなくなる… 大きな垂れ桜に…枯山水の石のうえに座る禅僧… まだ…全てが出来ていない木の板の上に…確かにそれが見える…
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