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屋号は「藤徳屋」とした。
集落の皆で相談して決めたそうだ。
松吉は名を「藤徳屋小兵衛」と改めた。
松の字では大層な名になるからと小の字をあてて慎む形を取ったのは匠の助言によるものである。
商売と言っても、皆素人である。
匠は奥の離れに住み皆に算盤や商いの仕方を教えていった。
とは…言っても匠自身も商いは素人である。
そこで匠は、二種類の部屋を作り来た客を接待しつつ売る方法を選んだのだ!
1つは普段使いの陶器などが並んだ部屋で、表の道に面しており、外からも陶器や竹細工などが見えるように陳列してある。
人が通り気になって中に入ると奥には匠が作った逸品が飾ってある。
陳列してある陶器は集落の者たちが作った物である。
その奥には匠が仕立てた着物が二着展示してある。
この着物こそが、この店の目玉商品である!
この着物を着れる人物はそれぞれ一人ずつしか居ないのだ!
一着は、白い絹の布地に様々な色の糸で刺繍された揚羽蝶…
その蝶がはばたくとぱらぱらと舞うように落ちる永楽文銭…
もう一着はどこまでも…黒い同じく絹の布地に舞う蝶と波しぶきが巧みに刺繍されている。
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