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徳兵衛の家の者も手を貸してくれたので大量の荷物は直ぐに物置に収められた。
藤沢匠と名乗る若者はその者たちに幾ばくかの銭を握らせ感謝の意を示した。
すると、小作人であるその者たちは馬の世話まで買って出てくれたので、匠は馬を任せる事にしたのであった。
集落の長の徳兵衛の接待を受け人心地ついて食事を口にした匠。
食事が終わると酒を薦められたので囲炉裏に灯る炎をつまみに舐めるように酒に口をつける。
「藤沢様はどうして此方に?」
徳兵衛が質問をする。
「うむ…我が家や主君が滅ぼされてしもうての?仕官の口を求め上京しようも参った次第だ」
「これは…変な質問を致しまして…申し訳なく…」
「なぁに!どうという事はない!前の事に心を残してもどうにもならぬからな!それよりも先の事だ!」
「それであのような…大量の荷物を…」
「急な出立であった故にぐちゃぐちゃと手当たり次第に積んでしもうたのだ!少し欲張り過ぎたかの?」
笑いながら言う匠を見て…
まだ幼い彼を必死に逃がす彼の親に思いを馳せる…
「大変な旅でごさいましたね…」
涙ぐみながら…言葉を吐き出す徳兵衛であった。
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