序章

2/14
前へ
/180ページ
次へ
 結婚した理由は、簡単に言えば利害の一致。  専業主婦になりたかった衣千子(いちこ)と仕事だけに集中したい幼馴染み(せい)は、見事なまでに利害関係が一致した。ただ、それだけだったが、衣千子にしてみれば、理由なんてそれで十分だった。  もうすぐ帰るという聖からのメッセージを見て衣千子は、食事を温め直す。その間、聖が幼馴染みで本当に良かったと、心からこの平穏を喜んでいた。そうこうしていると、聖が帰ってきたので、衣千子は幼馴染みであり、戸籍上では夫の聖を出迎える。 「聖と結婚出来て、本当に良かったよ」 「大袈裟だなぁ、衣千子は」 「今日の夕飯は、揚げだし豆腐だよ。上手く出来たと思うんだよね。まぁ、食べてみてよ」  会話だけなら、仲睦まじい夫婦のように聞こえる。だが、衣千子からすれば、それは絶対にないと言い切れた。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加