別れと再会

1/17
7115人が本棚に入れています
本棚に追加
/1872ページ

別れと再会

「美羽、落ち着け。大丈夫だ」  義昭に手を握られ、美羽は自分が震えていたことに気づいた。ふと見上げると、フライトアテンダントの女性が目を細め、微笑ましいと言わんばかりの表情を浮かべて微笑んでいる。美羽は握られた冷たい手の温度を感じつつ、曖昧に笑みを返した。  飛行機は既に飛び立ち、窓からは白い雲が見え、そこから見下ろすと太陽が沈みかけてオレンジ色に染まった街並みが小さく遠退いていく。  あと10時間もすれば、類の住むLAに着いてしまう。  美羽は軽い目眩に襲われ、吐気を覚えた。毎日意識せずとも考え、褪せることのない思いを抱えたまま立ち止まっている自分が、類に会って正気でいられるか自信がなかった。  あれから10年の月日を経て、類はどんな風に成長したんだろう。  ふと自分の姿が気になり、美羽は席を立った。義昭の手は既に離れ、彼は英字新聞に目を落として美羽の行動など気にかける様子もない。トイレに入り、目の前の鏡を見ると、そこにはあの頃のあどけなさが抜けた自分の顔がある。  もう少し早く再会出来ていたら……もっと綺麗でいられたのに。  そんな考えが過ぎり、美羽は慌てて否定した。これは、父の葬儀のためにアメリカへ行くのであり、類との再会のためではない。  もし、お父さんの葬儀がただ私を呼び寄せるためのものだったとしたら、義昭さんは何て言うだろう。  類との過去は、誰にも知られてはいけない。ましてや、夫である義昭さんには……  不安に襲われ、美羽はトイレの壁に凭れ掛かって大きく息を吐き出した。
/1872ページ

最初のコメントを投稿しよう!