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落ちついたグリーンと白の配色の『Funeral Home(葬儀場)』と書かれた看板を横目にタクシーが通り過ぎ、建物の前で停車する。降りた先には邸宅のような構えの葬儀場があった。看板と同じ落ちついたグリーンの屋根に白い壁で、穏やかでありながらも明るい空気に満ちていて、日本の葬儀場とは随分雰囲気が違っていた。
「さぁ、入ろう」
躊躇っている美羽の背中を促すようにして、義昭が中へと入っていく。
扉を開いた先には、大きなシャンデリアに照らされた赤い絨毯が敷かれた空間が広がっていた。ゆったりした高級そうなカウチが3つ置かれ、書棚には暖かみのあるランプと胡蝶蘭が飾られていて、ホテルのロビーのような雰囲気だ。
美羽が戸惑っている間に、義昭が受付で父の名前と彼の遺族であることを係の者に告げていた。
「遺族の控室に案内してくれるそうだ」
義昭の言葉に頷き、美羽は粛々と案内の係の後をついていった。
自分ひとりでここに来ていたらどうなっていたかと想像すると、恐くなる。けれど、この経験を既に類は16歳の時に味わったのだ。父以外知り合いのいない外国での生活。どれだけ不安で、寂しかっただろう。
控室の扉を前に、美羽の緊張が高まる。
ここに、類がいるかもしれないんだ……
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