別れと再会

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 控室の扉をノックし、静かに開ける。広い室内にはロビーに置かれていたのと同じカウチが点在し、軽食や飲み物が置かれた白い猫足のテーブルがあり、穏やかで落ち着いた雰囲気が漂っていた。  ただひとつの違和感は、真ん中に不自然に椅子がひとつだけポツリと置かれていることだ。  若い男性が、こちらに背を向けて椅子に座っている。少し撫で肩の曲線、細くて長い腕と脚、美羽と同じ濡れ羽色の青みを帯びた漆黒の細くて柔らかい髪…… 「る、い……」  確信を持っているけれど、信じたくないという気持ちもあった。もう決してこの唇が紡ぐことはないと思っていた、その名前。  声を掛けられた主が立ち上がって、振り返る。  アーモンド型をした大きな猫目が細くなり、涙が、湛えられていた目尻からスッと流れ落ちる。それは、この状況下でなければ溜息が出るほどに美しい瞬間だった。整った鼻筋の下には、赤味を帯びたぽってりとした唇。陶器のような白い肌は、美羽の記憶にあるものよりもさらに透明感を帯び、あまりの色味のなさは人工的にさえ思えてしまう。  ーーそれはまるで、鏡の中の自分を見ているようだった。
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