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義昭は僅かに眉を下げ、口角を上げて微笑んだ。
「そう、だよな……ルイとは会話を交わしたこともないし、僕がいたのはたった6週間だったから、君が覚えていないのも無理はない。
僕は大学4年の時に夏季だけの特別留学生としてセタンフォード大学に留学していて、現地の日本人との交流会でその時1年だった君と何度か一緒になったことがあったんだ。その場には大勢の人間がいたし、そういったイベントは大学在学中に何度もあっただろうから、そのうちの1人だった僕のことを覚えてる方が珍しいよな」
義昭からアメリカに短期留学した経験があることは聞いていたが、まさかこんなところで繋がっていたとは思いもよらなかった。
類の美しく整った眉がピクリと動き、唇が一直線に引っ張られる。それから、記憶の中の引き出しを開ける呪文のように、ブツブツと呟き始めた。
「Yoshiaki Asano……Yoshiaki……Yoshi!!」
突然、類の顔がパッと明るくなった。
「あぁ、ヨシか! 覚えているよ。君はみんなから『ヨシ』って呼ばれてたし、あの時とは印象も違ってたからすぐに分からなかった。まさかミューの旦那さんがヨシだったなんて……すごい偶然だね!」
そう言って微笑んだ類の表情には邪気がなく、美羽と義昭が夫婦であることを喜んでいるようにも見えた。
本当に、類は……私が義昭さんと結婚していることを認めてくれているの?
美羽の黒雲は一向に晴れないどころか、余計に厚みを増していく。
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