別れと再会

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 葬儀はプロテスタント式で行われる。教会の入口の正面の先頭に牧師が立ち、棺を背負った係の者たちが続く。そして喪主である類、その後ろに美羽と義昭が遺族として並んで立った。  扉の向こうからオルガンのレクイエムが響き、ガタッと椅子が鳴る音が一斉に響いた。扉が開き、牧師を筆頭にしずしずと入場する。伏し目がちに歩いているため、整然と並んだ長椅子の前に立つ参列者たちの顔ははっきりとは見えないものの、自分たち以外にも参列者がいたことに安堵し、異国の地で父が交流関係を築いていたことに誇りを感じた。  絨毯が敷かれたその先の祭壇の上に棺が静かに置かれ、その上に立派な赤と白の生花が飾られる。その脇にも同じような生花が大きな花器に生けられていた。  美羽は未だ、これが父の葬儀である実感が沸かずにいた。もしかしてあの棺には別の遺体が入っているのではないかという疑念すら、浮き上がってくる。  牧師の言葉により参列者が席に着き、美羽も類と義昭に挟まれる形で席に座った。  入場によって離れていた類の手が再び美羽の手を捉え、上から重ねられる。牧師が聖書を朗読して祈祷を捧げるが、美羽はとても神聖な気持ちになどなれず、黙祷に入ってようやく逃れた手に大きく息を吐いた。それなのに、離れた手をもう寂しいと求めてしまいそうになる自分がいる。  賛美歌を奏でるオルガンの音が、教会に美しく響き渡る。美羽や義昭はただ聞き入るだけだったが、隣の類は歌詞を見ることなく賛美歌を歌っていた。喋っている時とは違う響きの、耳に心地いいテノールの類の歌声に細胞が乱され、揺さぶられる。今すぐにでもここから逃げ出したくなる気持ちを、美羽は必死に抑えた。  その後、牧師が故人の略歴や人柄を紹介した。もちろん英語で説明がされるため、美羽には詳細は分からないが、『Mr. Uchiyama』という言葉だけは耳に届き、それが父の説明であること、やはり父は亡くなったことを思い知らしめ、哀しみの色がどんどん濃くなっていく。
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