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悪魔の棲家
受付で引き取った大きなスーツケースを、開け放たれた車のトランクに類が入れてくれる。見た目は自分とそっくりだけれど、軽々とスーツケースを持ち上げる姿に、類は男性なんだと感じる。トランクを閉めるバタンッという音が響いた。
「これ、父さんの車だったんだ……」
フォードのスポーツカータイプの青い車に乗り込むと、密室に3人でいるという状況が重苦しくなる。
「ホテルってどこ?」
「あぁ、ここだ……」
義昭が後部座席から運転席に手を伸ばし、予約したホテルの確認書を見せる。手にした類はスマホを取り出し、アプリから検索した。
「ダウンタウンの方か……結構遠いね」
「葬儀は1日だけだし、宿泊はダウンタウンの方が便利かと思ってそうしたんだ」
「オッケー、了解」
類が軽く手を挙げ、義昭にプリントを返した。伸びてきた長い腕に、美羽の鼓動がドクンと跳ね上がる。
類は慣れた手つきでダッシュボードを開けてケースを手に取ると、スクエア型とウエリントン型を掛け合わせたようなセルロイドの黒いフレームの眼鏡を掛けた。眼鏡を掛けた途端、類のそれまでの顔つきが変わり、知的に変化する。
右手でレバーを握ると切り替え、ハンドルを握る。高校生までの類しか知らない美羽には、それがとても不思議な光景に映った。すると、バックミラー越しに類に笑いかけられた。
「ミュー、見過ぎだから」
「ご、ごめんっ……なんか、類……大人になったんだな、って思って」
「ふふっ……そういう美羽だって。10年だもんね」
ふたりの会話に義昭が反応した。
「ふたりは、10年振りの再会だったのか?」
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