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美羽の声が上擦る。
「う、うん……両親が離婚して、父が類を連れてアメリカに渡ってから、会うことはなかったから……」
唇が歪み、泳いだ視線の先がバックミラーへと向かう。
お願い、類。何も言わないで……
そう目で訴えたのは、事実とは少し異なっているから。
事実は、父親が類を連れてアメリカに渡り、その後母親は現在の夫と出会い、離婚したのだった。けれど、それを説明すれば、なぜ離婚前に離れ離れに暮らしていたのかと義昭に疑問に思われてしまう。
類が方向指示器を出し、ハンドルを切って右折する。
「あぁ、そうだね。こうして会えたのは……父さんの導きなのかもしれないな」
穏やかに告げる声を聞き、美羽の背筋に戦慄が走る。一刻も早く、ホテルに着いてほしかった。
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