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美羽がおずおずとカウチに座ると思ったよりも深く沈み、包み込まれるような感覚に陥った。肘掛けの横のボタンに触れてしまい、足掛け用のオットマンが跳ね上がる。
「うわっ……」
思わず声を上げた美羽に、義昭ももう一方のカウチに座って同じようにし、背もたれを低くした。
「これは、快適だな」
「うん……」
長時間のフライトで疲労と睡眠不足の中、葬儀に出席して緊張が続き、今こうして快適なカウチに身を任せてしまうと、そのまま眠ってしまいそうだった。美羽は本能と理性を闘わせ、なんとか眠気と疲れを追い払うとカウチから身を起こし、立ち上がった。
そこへ、マグカップを載せたトレイと大きな紙袋を持った類が下りてきた。
「お待たせー」
義昭の肘掛けから飛行機で使うようなトレイを出し、そこにマグカップを載せる。義昭はウトウトしかけた躰をのっそりと起こし、「ありがとう……」と言い、マグカップを手に取った。美羽はそのまま夫が寝てしまわず、ホッと息を吐いた。
類から手渡されたマグカップを手に取ると、ローテーブルの前に正座した。口に持っていくと、カモミールの匂いが鼻腔をつく。その香りを嗅ぐだけで気持ちがリラックスし、癒されていく。ゆっくりと口に含むとトロッとした甘さが広がった。類はカモミールティーに蜂蜜を入れて飲むのが好きだったと、思い出した。
「それで、これが父さんから」
ローテーブルの上に大きな紙袋が置かれた。
「ありがとう」
美羽は戸惑いながら受け取ると、おそるおそる中を覗いた。
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