悪魔の棲家

8/42
前へ
/1872ページ
次へ
「週に3日ハウスキーパーに来てもらって食事の世話もしてもらってるんだけど、今日は葬儀で一日中家を開けると思って休んでもらったんだ。だから、簡単なものしかなくて、悪いな」  類はクラッカーやチーズ、サラミを載せた平皿をテーブルに置き、赤ワインを開けてグラスに注いでいく。 「あ、私は大丈夫……気分があまり優れなくて、お酒を飲む気にならないの」  その場の空気を壊すことを承知で美羽が言ったのは、強引に家に引き止めた類と妻の合図を受け取らずに受け入れてしまった義昭への恨みの気持ちが籠っていたせいもあった。 「ミュー。頭痛い? 薬飲む?」 「ううん、大丈夫……でも、もう今日は疲れてるから、部屋で休ませてもらっていいかな?」  顔を覗き込む類に、美羽は引き攣った笑顔を見せた。この家にいなくてはいけないのなら、せめてこの場からだけでも逃げたかった。 「分かった。じゃあ、ゲストルームに案内するよ。ヨシはそこで飲んでて」 「あぁ。美羽、ゆっくり休めよ」  義昭は既にワインを飲み、機嫌良さそうに手を振った。あの、美羽の嫌いな外面のいい顔で。 「う、うん……ありが、とう」  もしや自分は、間違った選択をしてしまったのではないか……そんな思いがこみ上げてきて、恐怖が募っていく。 「ゲストルームは2階だよ」  類が先頭を切り、階段を上っていく。続く美羽は、まるで絞首台に向かうような足取りで、後ろをついていった。
/1872ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7121人が本棚に入れています
本棚に追加