悪魔の棲家

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「はい、ここがゲストルームだよ。あ、荷物がトランクに入れっぱなしだったね。今、持ってきてあげるから待ってて」  類がミントグリーンのペンキで塗られた扉を開け、電気をつけて出て行った。警戒して躰を硬くしていた美羽は、類が階段を下りていく足音を聞き、ようやく肩から力を抜いた。  臙脂色に塗られた壁。キングサイズはあるかと思われる大きなベッドには、枕の他にもシルク素材の赤をベースにクリーム色の薔薇が描かれた小さなクッションが幾つも置かれ、白いシーツの真ん中にはクッションカバーと同じ柄のベッドスローが敷かれていて、海外らしい雰囲気が溢れている。その脇にはサイドテーブル、あとはクローゼットが置かれただけのシンプルな部屋だった。  電気をつけてもそれほど明るくないのは、この国が間接照明を重んじるからなのか。ベッドの隣にある扉を開くと浴室になっていて、トイレとシャワールームが備え付けてあった。早く熱いシャワーを浴びたい。  他に座る場所もないので、美羽は所在なくベッドに腰掛けた。適度な弾力がお尻に伝わって来る。このまま横になって眠りたい気持ちが湧いてくるけれど、類がトランクを持って来るから出来ない。  ギシギシと揺れる階段の音を聞き、美羽は立ち上がった。開きっぱなしの扉を大きく開けると、類が美羽のトランクを抱えて階段を上りきり、こちらに向かってきた。 「類、ありがとう。ごめんね、あとは大丈夫だから」  部屋の前で受け取った美羽に、類がニヤッと笑みを浮かべた。 「フフッ……ミュー、警戒してるの?」 「ッッ……なっ」  ズバリと言い当てられ、返す言葉が見つからない美羽を類の美しく残酷な色に染まった瞳が貫く。身動きできずにいると、類の顔が近づいて美羽の頬に軽く口づけた。 「おやすみ、姉さん(・・・)。ゆっくり休んで」  類の顔が離れ、パタンと扉が閉められる。美羽は呆然としてから、去っていく足音を聞いてハッとし、慌てて鍵を閉めた。  類の、真意が……分からない。
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