悪魔の棲家

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 バスルームに入り、衣服を脱ぐと全面ガラス張りになっているシャワールームの扉を開け、シャワーの栓を捻る。高い位置から霧のような細かい飛沫が肌に気持ち良く当たり、美羽はハァと吐息を吐き出した。  髪をしっかり濡らしたところでシャンプーのボトルに手を伸ばした美羽は、特徴的な薔薇の絵柄にハッと目を見開いた。  これ……私が昔、使ってたのと同じものだ……  いくらLAが日本人が多く在住していて日本の物が手に入りやすいからといって、そのシャンプーは日本製であるだけでなく、あまり名の知られてないブランドものなので、日本にいてすらスーパーや薬局等で簡単に購入できるような品物ではなかった。横を見ると、コンディショナーもボディーソープも同じラインのもので揃えてある。しかも全て新品のようだ。  まるで今夜、自分がここに泊まることを予期して用意されていたかのようで、美羽は恐くなった。  けれど一方で、類がまだ自分の使っていたシャンプーを覚えていたことを嬉しくも思い、また一方では、今使っているシャンプーと同じものでなかったことに安堵もする。  義昭はこのブランドがかなり高価であること、夫婦別々のシャンプーを使う事は経済的に勿体無いこと、薔薇の香りは女性の匂いだということを主張し、美羽は結婚して以来、市販のセール品である無香料のシャンプーを使用していた。  こんな風にされると、自分が大切にされているかのように感じて胸が苦しくなる。
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