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それから、優しかった父が自分を撫でる大きな手、穏やかな声、抱き締める腕の温かさを思い出し、全身が小刻みに震える。餌皿の意味を理解した途端、嫌悪感と気持ち悪さで胃液が込み上がってきて吐き気がして、瞳の奥が熱く焼け付く。
「やめ、やめてっっ……」
ありえない、そんなこと……
「父さんは僕をここに閉じ込めて……何日も監禁することもあった」
「う、そ……嘘っっ……」
美羽は白目を大きくし、唇をブルブル震わせながらじりじりと後退りした。けれど、類は顔を蒼白にしながらも容赦なく長い脚で美羽に追いつき、その華奢な手を捕らえる。掴んだその手は美羽のものよりも震え、氷のように冷たかった。
類の死んだ魚のような濁った眼差しが、美羽を捉えて押さえつける。
「父さんは、母さんとミューを失ってしまった愛情の拠り所を、崩れてしまった心の均衡を……僕を憎しみ、傷つけることによって取り戻そうとしていた」
やめて……聞きたくない!!
美羽は膝から崩れ落ち、耳を覆い、目を閉じ、今聞いた言葉を追い払うかのように激しく頭を振った。けれど一度耳の中に入り込んだ毒薬は美羽の体内にゆっくりと浸透し、汚染しながら広がっていく。
「父さんは……悪魔に、なってしまったんだ」
耳を塞いでいても、テレパシーのように類の冷たい声が脳髄に響いてきた。
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