救いの声

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 晃の目が飛び出さんばかりにギョッとする。 「お義母さんが俺の実家に行けば、お義父さんとなんかあったんじゃないかって疑われるに決まってるだろ。まだ離婚も決まってないのに、そんなこと出来るわけないじゃないか。それに、うちの親だけじゃなく、他の親戚だっているんだぞ。  仕事があるから俺は顔出すだけのつもりだけど、その時に何言われるか分かったもんじゃない」  圭子はそれを聞き、肉付きのいい頬を更に膨らませてブスッとした表情を浮かべた。いくら図々しい圭子とはいえ、夫の実家となると、自分の実家のようには自由に出来ないらしい。  この家を出ることは決めているものの、琴子もそれを聞き、考えた。  孫のほのかと一緒にいたい気持ちはあるものの、晃の実家について行くほどの厚かましさはないし、離婚前に変な噂をたてられても困る。だからといって、晃の家で彼とふたりきりになるのも嫌だった。  ほのかが生まれたことにより、晃のことを少しずつ認めてはいるものの、彼のことを好いているわけでもないし、心を許せないと思っているからだ。もし圭子が妊娠していなければ、絶対に晃との結婚は認めなかったし、義理とはいえ、この男が息子だと思うと嫌悪感すら覚える。  今まで立ち尽くしていた美羽は琴子の様子を横目で窺いつつ、今を逃すと出られなくなると思い、早口で告げた。 「あ、あの……さっき兄から電話があって。出発が早まったということで、今夜、母のところへ行くことになったんです」
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