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「えっ、そうなのか?」
義昭が驚いて美羽を振り返る。そこには、拒絶の表情が浮かんでいた。
義昭は表面上は華江に対して当たり障りなく接しているものの、苦手意識がある。福岡に行くことも年々面倒に思うようになっていたし、あの場にいることも苦痛で堪らなかった。
美羽は嘘をついているという罪悪感に呑み込まれそうになりつつも、喉をゴクリと鳴らして頷いた。
「うん……お母さんが、早くに来て欲しいみたいで」
こんな理由が通用するはずがない。緊急の用事でもなければ、義昭は納得しないはずだ。
これ以上、具体的な理由を聞かれたらどう答えようかと美羽が考えあぐねていると、琴子がボストンバッグを畳の上にストンと置き、義昭の元へと歩み寄って膝がつきそうなぐらい近くで座ると、猫なで声を出した。
「ねぇ、義くん……」
「どうしたの、母さん?」
義昭が、美羽から琴子へと視線を移す。
「圭子が晃さんの実家に行ってる間、義くんのところに泊めてもらえないかしら」
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