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琴子はパァッと表情を明るくし、義昭に躰を預けるように傾けた。
「あぁ良かった! 義くんが一緒にいてくれるなら安心だわぁ。久しぶりの母子水入らずもいいものよねぇ」
琴子にはホテルに泊まるという選択肢だってあるのだが、それはハナから考えていなかった。
琴子は何かを一人でするということを今までしたことがない。一人暮らしや一人旅はもちろん、どこかに泊まったり、レストランや喫茶店すら一人で入ったことがなかった。
だから、いくら息子の家とはいえ、ずっとそこに一人でいなければならないという状況が琴子には受け入れがたかった。
琴子が離婚という重大な決意をしたにも関わらず大作の元を離れて一人暮らしをしようとしないのは、経済的な問題よりも精神的な理由の方が実は大きいのだ。琴子は離婚を考えた時から自分の子供たちに寄りかかるつもりでいたし、それは当然の権利だと考えていた。
琴子の落ち着き先が決まったところで、義昭が膝を立てて立ち上がった。
「チョッ……美羽、ちょっといいか?」
声がひっくり返ってから慌てて整えた義昭の表情は、緊張を浮かべていた。これから何が起こるのかと、美羽は頬を引き攣らせる。
「う、ん」
不安に思いながらも、義昭から少し離れて後についていく。
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