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不測の事態
玄関のインターホンが鳴り、美羽は飛び出すように出て行った。
ガラッと引き戸を開けると黒いダウンベストが目に飛び込んできて、美羽はグイと高く首を持ち上げた。隼斗は色褪せたレッドチェックシャツの上にダウンベスト、ベージュのチノパンにスニーカーというカジュアルな出で立ちだった。服装に無頓着な隼斗は流行ものには興味がなく、着やすさを重視している。けれど、こんなシンプルな格好でも背丈があり、がっしりした体つきのせいか、様になっている。
「渋滞、大丈夫だった?」
「あぁ。裏道通ってきたから、そんなに時間かからなかった。荷物、これか?」
「あ、うん……」
隼斗は既に玄関先に置いてあった美羽のボストンバッグを軽々と持ち上げ、右肩に担いだ。義昭とは違い、なんと自然な仕草なのだろうと美羽が感心していると、隼斗は立ち止まったまま廊下の奥を見つめた。
「義昭くんは?」
隼斗の問いに、美羽は身を縮こませた。
このまま出て行くことなんて、出来ないよね。
「それ、が……義昭さん、体調が悪いから今回は私たちだけで行って欲しいって言ってて」
隼斗が精悍な眉を寄せ、美羽の顔を覗き込む。
「だったら俺だけ行くから、美羽はここに残って義昭くんの看病をしてあげた方がいいんじゃないか?」
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