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隼斗がトランクを開け、美羽のボストンバッグを積み入れた。
普段は3列シートの後ろ2列分を収納して契約農家から仕入れた食材等を載せられるようになっているが、今日は美羽と義昭が乗ることを考慮して3列シートの状態になっていた。美羽はその間に助手席の扉を開け、サイドステップを踏んで車高の高い座席に腰を下ろした。
仕入れた食材を車から店に運び込む手伝いをすることはあるが、こうして助手席に乗るのは義昭と結婚してからというもの半年に1回、お盆と正月だけだ。
それでも懐かしい気持ちを抱くのは、車を乗り換えても隼斗が毎回黒のランドクルーザーを購入するせいなのかもしれない。それだけでなく、車のフロアマットや清潔感を感じさせるシトラスブルーの芳香剤に至るまで、何ひとつ変えていない。それは、美羽をひどく安堵させた。
何度行っても慣れることのない義昭の実家の空気に触れていたせいで、特にそう感じているのだろう。
隼斗がここに来るまでの2時間が、なんと長く感じたことか。美羽は先程までの家族会議のことを思い出して、淀んだ気持ちになった。
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