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「あけましておめでとう」
ぁ……
美羽は思わずポカンとした。
隼斗に新年の挨拶することをすっかり忘れていた。いつもなら、隼斗が迎えに来た時に美羽の方から真っ先にするのに。
「あけまして、おめでとうございます。
隼斗兄さん、今年もよろしくお願いします」
「あぁ。よろしく」
かしこまって挨拶をした美羽に、隼斗が小さく笑みを見せる。隼斗と挨拶を交わし、ようやく新年を迎えた心持ちになった。
「じゃ、出発するぞ」
「うん」
隼斗がウッド調のステアリングに、骨ばった逞しい手を掛ける。エンジンをふかす音が響き、車が発進する。サイドミラーに映る義昭の実家が小さくなっていくのを見ながら、これから取り残される大作のことを思い、チクッと美羽の胸が痛んだ。
だがそれも、僅かな時だけだった。完全に視界から消えると、美羽の心は次第に軽くなっていき、心地いい車の振動を感じながら深く沈む込む黒の本革シートにゆったりと身を委ねた。
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