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類がおもむろにシャツを脱ぎ、美羽の目の前にパサリと落とした。その気配に顔を上げた美羽に、深い哀しみの籠った黒曜石の瞳が向けられる。
「この傷は、父さんにつけられたものだ」
背を向けると、白く陶器のような美しい背中には無数の傷が刻まれている。赤紫に腫れ上がった深い傷跡が大きく斜めに入っていたり、カサブタになっている箇所もあった。パックリと割れて、中身が見えたまま固まっているものもある。その凄惨な傷跡は見ているだけで痛々しく、美羽は思わず目を背けた。
こ、んな……酷い、傷……どれだけの痛みだろう。
そんな所業を父が、あの優しかった父がするなんて……信じられない、信じたくない。けれど、背中の傷跡から、類の哀しみに濡れた表情から、それが真実だということを認めざるをえなくなる。
小刻みだった震えが激しくなり、胃液が喉元近くまでグウッと這い上がってきて、無理やり押し込んだ。
「それからこれは、リストカットの痕……何度、死のうと思ったか分からない」
「酷いな……」
目を背けたままの美羽には、類の手首に刻まれたリストカットの痕は見えないが、義昭の言葉でその真実味が伝わってきた。
「ここから逃げたいと思った。何度も逃げようともした。母さんに、ミューに会いたくて……
でも……出来なかった」
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