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不慮の事故で親と兄弟を亡くした僕は、田舎で暮らす祖母の家に引き取られた。
変わり果ててしまった日常を受け入れる事など出来ない。
転校先の高校も馴染めず、心を閉ざして日々を過ごす。
当てもなく一人で歩き続け、乾いた心を冷たい秋風に晒していた。
全て凍り付いてしまえ。この先の人生で、身も心も熱くなる事など無いのだから。
いっその事、世界から僕と言う存在の記憶が無くなればいい。心配する人がいなければ、辛い想いを抱えて生きる必要も無くなる。
そんな事を考えていると、どこからか安らぐ音が耳に届いた。山道を進むと綺麗な小川を見つける。でも、僕の視線はその先に囚われていた。
真っ白な帽子とワンピースの少女が優しく微笑んでいる。木漏れ日を受け止め、艶やかで黒い宝石の様な髪が風に舞っていた。
意識を奪われ、ただ呆然と立ち尽くす。
僕に気付いた少女は、逃げる様に背中を向けた。
「待って……」
絞り出した声はかすれ、とても小さくて弱々しい。
それでも、少女は立ち止まって振り返る。
少しだけ赤く染まった頬を覗かせ、僕の心を魅了した。
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