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川辺に腰を下ろすと、少女は少し離れてしゃがみ込む。
引き留めてしまったけど、何を話していいのか分からない。焦って絞り出した言葉は、とても単純な疑問だった。
「なんで逃げなかったの?」
「あなた声が……今にも消えてしまいそうだったから……」
透き通る美しい声が、儚い少女のイメージに彩を添える。
少しでも長く声を聞きたい。そう感じた僕の口は止まらなかった。
「僕の名前は朝日拓也。拓也って呼んで。君は?」
「……如月泉。泉でいいよ」
「泉か……可愛い名前だね」
「そうかな?」
「泉は高校生?」
「十六歳。拓也は?」
「僕も十六歳だよ」
不思議な感覚に包まれる。まるで、小さい頃から一緒に居たような、懐かしい感覚。
「どこの高校なの?」
「高校は行ってないの。病気だから……」
「あっ……その……ごめん」
「いいよ。別に隠す事じゃないしね。この辺りの人なら知ってるはずだけど……拓也はどこから来たの?」
「都会だよ。それ以上は思い出したくない」
「思い出したくない?」
「事故で家族を奪われたんだ」
「そう……ごめんなさい」
「謝らないで。僕には婆ちゃんがいるから大丈夫だよ」
嘘だ。
泉の悲しそうな声を聞きたくなかったから、嘘を吐いた。
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