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「で、おまえら風呂くらい入ってきたんだろうな」
「え?」
「いや、それは……」
「おいおい、こんなきれいな体をいただくんだから綺麗にしてこい」
「今からっすか?」
「おまえらが来たらすぐに突っ込めるように馴らしておいてやる」
「兄貴、そりゃずるいっすよ」
「この先の駅前にサウナがある。二人で行け」
男二人は渋々、重い腰を持ち上げて、部屋を出ていった。
この兄貴と呼ばれている男は他の二人とは格が違うようにも感じる。これはあくまで推測の範囲を超えないのだが、さっき二人と、兄貴と呼ばれた男はうちの組織の人間ではない。
工場で働く人間には短髪が義務になっていた。兄貴と呼ばれた男はポマードで髪をかためていて、ゆるいウェーブがかかっている。それに、どうもカタギの人には思えない。
「さて、坊っちゃん。俺はおまえを指示があるまで監禁するように言われている」
「監……禁」
「そうだ。だが、俺らに頼むってことは"何してもいい"ってことだ。すなわち、俺の気分次第だ」
寅山はごくりと唾を飲み込んだ。
「そういう依頼のときは、たいていろくでもねぇことをやらかしたヤツの後始末と相場が決まってる。けれど、坊っちゃんの場合は違う。はっきり言っておまえに非はない。大人のゴタゴタに巻き込まれただけだ」
「じゃあ……」
言いかけた言葉は男の鋭い眼光で遮られた。
「勘違いするな。俺は仕事はきっちりやる性分だ。だからせめて、坊っちゃんにはここで楽しい時間を過ごさせてやる」
こんな薄汚いアパートの一室で楽しいことなど、あるはずがない。男は、寅山を抱き起こし、髪をそっと掻き上げるように撫でた。
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