第二章:人生を狂わすほどの快感を

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「ふあ」  流れる景色を見ながら、寅山はあくびをした。 「昨夜も遅かったんですね」  翌朝、別宅に迎えにきた運転手の"柴田"が寅山に声をかける。 「まあね。でも、もう最近は僕も年をとったよ。毎日したいとはさすがに思わないから」 「そろそろ落ち着いてもらわないと困ります」 「カタイこと言うなよ。これは、僕のライフワークみたいなもんだ。君が一番知っているだろ」  柴田は黙った。  監禁され男にかわるがわる犯され続け、快楽に目覚めたという事実は、龍崎と運転手の柴田しか知らない。  事実と異なる結末になったあの事件について、警察に教えてもらったことがある。あのとき警察に、自分の居場所を通報したのは柴田らしい。もともとあの部屋は、柴田の父親が借りていたアパートだったという。事情聴取されたときに自分を連れ去った男は一人だったと話した。柴田はあの事件に加担していなかったと嘘をついたのだ。  それに、柴田はすでに社会的制裁を受けていた。解雇を恨んで社長の息子を誘拐した父親を持つ人間として、会社もクビになっていた。  そんな柴田に助けてもらったお礼がしたいと父に訴え、自分の近臣に置いた。そして今では、自分の運転手をしている。  そのときも、そして今も、柴田を救いたいなんて気持ちはない。ただ、自分の本性を知っている人間が一人くらいそばにいてもいいと思った。それだけだ。 「自分はともかく、龍崎様は心配していらっしゃいます」 「慎也は、僕に構いたいだけだから」 「それだけではないと存じます」 「別に、同情なんていらないのにね」  それから、大人になってから龍崎にすべてを話した。龍崎は、話を聞いて絶句していたが、おかげで自分の望むものを理解してくれたと思っている。  生ぬるいセックスでも、龍崎がそれで自分を守っているつもりなら、それでいい。 「甘いんだよ、慎也は」  そう一人ごちて、寅山は眠りに落ちた。  ほんのひとときの休息のあとは、社長の顔を浮かべて微笑むのだ。
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