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寅山が何も言わなくとも、車はすでに目的地に向かって走り出していた。時計を見れば、二十三時を過ぎたくらいだ。
「ねぇ、このあとどうする?」
「どうって」
「慎也を家に、まっすぐ送り届けるのかってこと」
龍崎はため息をついた。自分が何を言いたいのか、察しがついているからだろう。そして、寅山は最初から龍崎を送り届けるだけのつもりでは、なかったということも。
「いつも言ってるじゃない。僕はいつでも同じ気持ちだって、さ」
隣の龍崎の太ももから膝にかけてを、寅山はじれったく撫でた。そんな悪戯な手に構うことなく、龍崎は窓の方に顔を向けたまま、小さく呟いた。
「……夜が明ける前には帰る」
その言葉に、寅山の目元は優しく緩んだ。
「わかってる。ねぇ、行き先、別宅にして」
寅山が運転手に告げると、運転手はなにも答えず、車は広い道路の中央で大きくUターンした。
車中には沈黙が訪れた。
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