第三章:寅山を知る、もう一人の男

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 実は、この獅子ヶ谷と浜村の二人は、そういう仲でもある。けれど恋人であり、なおかつ常識人の浜村が言い出したというなら、きっとそれなりの理由があってのことだろう。いずれ、そう遠くない未来に事情は説明してもらえる気がしたので、寅山はそれ以上の言及を避けた。 「新しい営業担当の篠原は俺の同期入社なんですが、元はデザイナーなので社長のお役に立てると思いますよ」 「彼もまた、面白そうな逸材だね。イチくんを射止めたほどの男だから、期待しているよ」  そして新しい営業担当である篠原雪兎も、実はまったく知らない間柄ではない。寅山と龍崎と同じ同級生である黒川一狼の、今の恋人だ。二人がいろいろあって、ようやく交際を始めたのは記憶に新しい。  いつもの応接室に案内され、寅山は革張りのソファに腰かけた。 「それでは篠原を呼んできますので」 「うん。じゃあ、浜村くん、また今度食事でも行こうね」 「はい、ぜひ」  穏やかな笑みを残して、浜村は部屋を出ていった。  龍崎もだが、たとえプライベートで密な関係であっても彼らはきちんと仕事をしてくれるので、こちらも遠慮なく言いたいことが言えている。そんな彼らだからこそ、この営業担当の変更も、それほど危惧していなかった。  ただ、今回は営業と一緒に担当デザイナーも変わると聞いている。今まで、寅山が社長になってから、すべての販促品、ポスターなど、黒川が担当していた。黒川は実に器用な男で、元は服飾デザイナーだが、企業デザインにもその能力は発揮され、こちらの要望通りのデザインを仕上げてくれた。  寅山羊羹は、いわゆる老舗の企業で、社長以外の幹部は寅山の家系の人間で、年配の重鎮が占めている。古き伝統を大切にするあまり、新しい風を吹かせようとする意識が欠けているどころか、断固拒否に近い。今回のデザイナー変更の件については、すでに株主の耳に入っており、危惧する声も多いと聞く。  そんな寅山の心配をよそに、新しいデザイナーのことを龍崎は『良くも悪くも、龍崎コーポレートらしいデザイナー』と評していた。それにデザイナーが自ら、寅山羊羹を担当したいと言い出したという。  だからといって寅山羊羹を熟知している龍崎が何も考えずに使えない人間を担当させるとは思えないが、寅山は、なんだかあまり気が進まなかった。
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