プロローグ:もうひとつの夜

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プロローグ:もうひとつの夜

 ワインバーを出て、少し離れて止まっている黒塗りの外車に合図するように、寅山喜之助(とらやまきのすけ)は軽く手を上げた。  社長という役職とはいえ、三代続く羊羮屋の一人息子という理由で今の地位にいるような自分には、つくづく運転手つきの高級車は不釣り合いだと感じるのだが、父親である会長が言うには、いずれ相応しくなっていくものらしい。  その扉の前には運転手の柴田(しばた)が立っていた。このくらいの時間に解散になるから、とあらかじめ告げていたが、毎度のことながら、柴田は時間を間違いなく守る。そして多くを語らず、秘密も守る。そうでなければ、一流の運転手とはいえない。   寅山が近づくと白い手袋をつけた手が後部座席の扉を開ける。何も言わず、そのまま後部座席に乗り込めば、寅山のあとに続いて、龍崎も乗り込む。二人が座席に深く座ったことを確認し、扉が閉められる。     
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