第1話 二十四番区の少年と五番区の少女

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ネオンに照らされる二十四番区は、いつしか一日中眠らない都市になってしまった。昼と夜が混在した世界は危険だ、とフユキは思う。 だって嘘の世界だから。バーチャルとリアルがごっちゃになって人の頭を混乱させる。 スティク状の水飴を舐めながらフユキがサイドストリートの七番線近くで佇んでいると、無線が入った。 『ホシの車が入ってきた。フユキ、止めろ。車両ナンバーは59-g08」 「...了解」 バリバリと飴を噛み砕いてフユキがサングラスを外す。薄緑色の眼を西の空に向けながら車道に歩み出でた。 メインストリートからチカチカと目に刺すような車のライトが見えてきた。車道に立つフユキが見えるだろうに失速する気配がない。 フユキは車の方に手を伸ばした。薄緑の眼が薄く光り始める。 ガンッ、と車体の右横にコンクリートの塊がぶつかった。不意を突かれた車が蛇行するが、運転手の腕がいいのだろう、バランスを立て直す。けれどすぐさま二発目のコンクリートが追い討ちをかけた。 ガガッ、と悲鳴を上げた車が尖った石の塊に乗り上げてスピンし、最終的に脇の石垣に突っ込んで煙を上げた。大破した車体からはすぐさま数人の男が降りてきて、皆一様にレーザー銃を手に持って怒号を上げている。 フユキの眼がさらに光る。人差し指で男らを指差すと、足元にあった瓦礫が浮き上がって彼らの手や顔に降りかかった。尻餅をついた男の一人がフユキを見上げて慄いた顔をする。 「あぁ...クソが、サイキックの餓鬼だ!」 薄暗い道の上で、この町のネオンより明るい緑色をしたフユキの両目が輝いている。 男たちが攻撃に転じる前に頭上から網が覆いかぶさった。数台のパトカーが近づいてくる。身を潜めていた警察官も姿を現して、男たちを確保した。 フユキは再び水飴を舐めながら目の前の乱闘を遠巻きに見物した。追加の命令が無ければ彼はこの逮捕劇には加わらない。 警察官は、石垣にぶつかって大破している車のそばに近寄った。車内の誰かを必死で救出しようとしている。そうして彼らに手を引かれて出てきたのは、フユキより幾分か年上に見える少女だった。黒目黒髪で、体の線が細く、色白の肌をしていた。 フユキは口の中の飴を思わずバキリと噛み砕く。
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