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驚いた、東洋人じゃないか。生粋の黒髪を無法地帯が広がるこの二十四番区でお目にかかれることは滅多にない。こちらの視線に気がついたのか、要人として警察官に囲まれる少女がふとフユキを振り返った。黒真珠のような美しい瞳がしっかりと見開かれる。
フユキはすぐに顔を背けた。そのまま下を向いて、サングラスをかける。
気を抜いていた。有事に備えてスタンバイをしていたせいで目を晒したままだったのだ。スモッグかかったレンズでそれを隠す。そうすれば、異様な光も一見すると分からないはずだ。
フユキがポケットから新たな水飴を取り出そうとしたとき、近くにいた警察官がこうボヤくのを聞いた。
「ったく、テレキネシスだかサイコキネシスだか分からんが、気味が悪い。保護対象を死なせたらどうするつもりだったんだ」
「同感だよ。奴ら、異能を使って楽しんでんだぜ。自分の力をこれ見よがしに見せつけてよぉ」
フユキはポケットに両手を突っ込んだ。そうしてゆっくりと警察官の方へ歩いていく。
「お前、あの目を見たことがあるか?薄汚い野犬みたいに本当に光っているんだぜ」
「誰も見たいと思わねぇよぉ。それに見すぎると呪われるって話だし」
「なんだ、お前そんな噂信じるのか?」
「そうじゃねぇけど。でも見てもいい気はしないだろ」
「...何なら今すぐ確認してやろうか。この目を見て、呪われるか呪われないかをさ」
二人がギョッとして振り向いた。
フユキはサングラスをかけて笑って佇んでいる。
とたんに彼らは鼻白んだ顔をした。片方がペッ、と唾を吐く。
「粋がってんじゃねぇよ、ガキが」
そう言って背を向けて離れていく警察官の足元をフユキはじっと見つめた。
すると固く結ばれていた警察官の靴紐がほどけ、彼らの進行方向とは反対向きにグンと引っ張られた。躓いた男たちが声を上げて倒れこむ。
フユキは口の端を上げて笑ったが、愉快な気持ちは長続きはしない。仏頂面に戻った彼は踵を返し、足早に現場を離れていった。
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